Page-2

ハサミ1本で、青年は荒野をめざした

山本久博が美容学校を志望したのは、ただひたすら海外に渡りたいという一心からである。
「高校を卒業するころ、世は大学紛争真っ盛りで学園封鎖や入試中止があいついでいました。もともと勉強は好きじゃなかったし、どうせなら海外に出てみたかった。調べてみると、ロスに姉妹校を持つ美容学校が東京にあったんです」
当時、愛読していたのは、五木寛之の「さらばモスクワ愚連隊」や「青年は荒野をめざす」だ。小説の主人公たちが楽器を武器に海外に飛び出していったように、山本は、ハサミ一本で世界に旅立とうとしたのである。

裸一貫から成功した人は、誰でもワラシベ長者的な要素を持っている。転んでも、タダでは起きない。どうやら山本にも、運を芋づる式に手繰り寄せる才能があったらしい。一例を紹介しよう。

根っからの乗り物好きだった山本が初めてバイクを買ったのは、高校3年の時である。仮病を使って修学旅行をキャンセルし、旅行積立金を頭金にしてSUZUKIのウルフ90を手に入れる。このウルフ90とともに上京し、代々木の美容学校に通った。

「ヨタハチ、フェアレディSR・・・スポーツカーに憧れましてね、学校帰りに中古車屋さんに寄っては眺めていた。そしたら、若主人と仲良くなりましてね、ウルフ90を頭金にしてS6(ホンダS600)を組んでやろうか、という。見ると、隅っこにS6のスクラップが3台上積みにされている。いちばん上からボディー、真ん中からエンジン・・・という具合に部品取りして、結局、16万円で手に入れました」

このS6のハンドルを握って秋田に帰郷する途上、山本は水戸街道の柏付近でクラッシュする。
大破。意識不明。幸い一命を取り留め、しかも山本に非はなく、保証金45万円を手にする。

「これでもっといいスポーツカーが買える!  しかし、この機会を逃せば海外に出られないと思い直して、留学資金に充てることにしました。ところが、大使館に行ってみると、留学ビザ取得には、留学費として90万円持っていることが条件だった。そのとき近くで聞いていた初老の係官が、内緒で45万円を90万円に化けさせる方法を伝授してくれたんです」

まず、45万円をA銀行に預け残高証明を取る。直ちに全額引き出してB銀行に預ける。A行残高証明とB行預金通帳を合わせれば、90万円になるではないか・・・。

こうして、山本青年は憧れのロスで美容修業に励み、数年後には由緒あるカットコンテストの常連入賞者となって、郷里・秋田市に美容室を構える。この間の興味深いエピソードは紙幅の都合上、割愛する。ここでは、山本が開発したカット道具「レザルテ」について紹介しておきたい。


レザルテ」量産のための雄型造り。
光を当てると硬化する特殊なプラスティック「光硬化性樹脂」にレーザー光線を当てながら作る(秋田県工業技術センター)。

山本の美容室では、鋏はほとんど使わない。もっぱらレザルテというカッター一本で仕上げる。
「従来の鋏では、毛先のディテールまで表現できないんです。髪の長短を切り分けることしかできない。使い易いカッターがあれば、髪の毛一本を自由に切断できる。毛先の表情が作れるんです」

山本はコツコツ試行錯誤を重ねながら、かれこれ15年かけてある完成形に辿り着いた。いわば、このレザルテという道具を完成させたことで、山本のヘア・デザインもまた完成されたのである。

まず、道具というモノ作りから始める。というより、既存の道具の守備範囲を超えたところに好奇心が赴く。ソーラー専用コース然り。そこが、山本のラディカルな魅力である。

 

 

 

次のページへ続く

メインページへ戻る